南瓜の馬車 〜いいわけでも許して〜

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【ネタバレあり】完璧な暗殺者、ジェイソン・ボーンはどこに?(映画:ジェイソン・ボーン)

とりあえずの感想としては・・うーん・・今までのマット・デイモン出演のボーン・シリーズとはちょっと異なる印象を受けた。別に悪いわけじゃないんだけど、テイストが違うというか。今までのボーン・シリーズでは「暗殺者」であるジェイソン・ボーンのその能力の高さとして、格闘やカーアクションだけではなく、様々な場面で機転を生かした戦い方がため息が出るほどよく構成されている。今回はスピード感溢れるアクションではあるが、その辺りが希薄に感じてしまって物足りない。やはり、僕がそもそも先入観を持って映画を観ているという意味でもあるだろう。

個人的な感想として優劣を付けるのであれば、前作3シリーズがやっぱり良い。その3シリーズのトリガーとなる物語を描いた「ボーン・レガシー」はやはり他のボーン・シリーズとは違う。そもそも監督がポール・グリーングラスではなく、トニー・ギルロイであることからもスピンオフと考えた方が良いだろう。

そういう意味では今回は個人的にシリーズ4作目と捉えている。  

デヴィッド・ウェッブという本名を取り返し、CIAの追っ手をやっと振り払ったかに見えたボーン。しかし、荒んだ毎日を過ごしていたボーンに、同時にCIAを逃げたリッキーが連絡を取ってくる。そこにはCIAの新しい謀略、そして暗殺者ジェイソン・ボーンが生まれた背景には更に深い闇があった・・。

最初に受けた印象は先に書いたけれど、マット・デイモン演じるボーンはやはり板に付いているというか、ハマリ役だと思う。アイディンティからアルティメイタムまで、「完璧な暗殺者」であるボーンの高い身体能力、知力、その場に応じた闘うための適応能力の高さとスピード。全てがマット・デイモンにぴったりだ。記憶を無くしても身体に染みついた「闘う能力」がいたるところで発揮される場面はリズムも良く、小気味良い。アクションとしても高いレベルの完成度を誇っていたこのシリーズだが、今回は少しやり過ぎな感じがする。

まずは、とにかく良く動くカメラ。ここ数年、アクションの臨場感を出すためなのか、カメラを「揺らす」映像が多い。だが、どうにもやり過ぎている感じがして、観ているうちに酔う。しかも、短いカットでカメラを切り替えているせいで、シーンの全体を俯瞰することができない。例えばカーチェイスの場面ではあまりカメラが頻繁に切り替わるために、どの車がどの位置にいるのか捉えにくい。流れが終えないのだ。もちろんそれは僕自身の鈍くささもあるのは否定しないが、それでも、場面の流れを追おうとしているためか、シーンの派手さまでに頭が付いていかない。それは、肉弾戦の部分でもそうだ。どうやって手を出して、どうやって身体を使って何をしたのか?が分かり難い。確かに、スピード感も派手さも上がるし、有効な手段だとは思う。ただ、個人的にはもう少し抑えるというか、場面を限定して使って欲しいなと思う。そのせいか、ボーンの「強さ」が今一つ際立たない気がする。うーん、ここが一番、勿体ないと感じた。

また、今回はシニカルとも取れるような行動や場面が少ないのが物足りなかったかも。これは趣味の問題のようにも思うが。例えば、アルティメイタムで姿を隠していつつ、望遠鏡で本部の様子を監視しつつ、ボーンの行方を探すパメラに対して「顔色が悪いぞ。休んだ方が良い。」とかリッキーに接触する際に「リッキーを探さなければならない。時間をくれ。」に対して「それなら心配ない。あなたのすぐ横にいる。」みたいなシーンだ。何度観てもちょっとゾクッとする格好良さがある。今回は、最後のシーンでアリシアの野望に対する嘘を、ビデオに撮ってさりげなく彼女の車に残しておくところくらいだろうか。

 

色々とイマイチと感じたシーンについて書いたが、このマット・デイモンのボーン・シリーズが好きなことに変わりはない。どの作品も2作目、3作目となると捻りすぎてシンプルなストーリーを楽しめなくなることが多いが、こいつはやっぱり違う。個人的には「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「スター・ウォーズ・シリーズ」、ダニエル・クレイグの「007シリーズ」に負けないシリーズを通しての面白さがある。きっと土台となる脚本がシッカリと書かれているのかな・・と想像するが、暗殺者として完璧な「兵器」としてのボーンと、それを作り上げているデヴィッド・ウェッブという清潔感と正義感の溢れる人間性に魅力があるのだと感じる。

 

本作も三部作になると言われているが、次ぎはどうなるのか?既に「次ぎ」が楽しみな作品である。