読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

南瓜の馬車 〜いいわけでも許して〜

日常生活で思うこと、電子ガジェット、オーディオ、映画、小説を紹介するサイトです。

【ネタバレ】この理不尽な戦いの意味は・・(ダークゾーン:貴志祐介)

職場復帰して約一ヶ月。仕事はまだまだにしても通勤はいつも通りになっているわけで、結局、イライラを封じ込めるために通勤電車は音楽に没頭する日々が戻ってきた。今の機材は相変わらず良い音だなと思うのだけれど、夏と冬の気温差のせいか、それとも長い間カスタムIEMをあまり使わなかったせいか分からないが、微妙に左右のフィット感が変わった。少し弄ろうかどうしようか・・思案中。まあ、あまり弄らない方が良いとは思うんだけどね。しばらく様子見かな。

 

さて、今日は貴志祐介さんの「ダークゾーン」について。貴志祐介さんの作品は割と好きだ。最初にこの本の紹介文を読んだ時に「とにかく貴志祐介さんの作品なら読んでみよう」という気持ちが先に立ったのだから。

f:id:rei1963:20160815193426j:plain

将棋棋士奨励会三段の塚田が闇から目覚めた時、そこは軍艦島を模した異様な世界だった。そこには彼をキングとし、様々な役割を持つ合計18体の赤軍の駒たち。そして戦いを強いられた相手方として同じような18体の青軍が存在した。双方の駒はそれぞれ見知った、またはどこかで接触のあったと思われる人たちの変わり果てた姿であった。その世界では赤軍と青軍が戦い、先に4勝を上げれば現実世界に戻ることができ、負ければ無へと消滅してしまうらしい。同時進行する現実世界の動きと異世界でのバトル。勝敗の行方とその先にあるものとは?

うーん、要約するとこんな感じだろうか。あまり上手く説明できていないかも。この物語を最初に読み始めて感じたのは、僕が最初に貴志祐介さんの作品に触れた「クリムゾンの迷宮」と似たテイストを持っているなと感じたことである。つまり、バトルゲームを主軸とした物語だ。しかしそれは結局半分裏切られることになる。

 

主人公が棋士であることから、異世界でのバトルもある程度将棋やチェスを模倣した駒の能力と戦い方がある。この設定は面白いと思った。ただ、個々の駒の役割というか機能の説明を物語の進行と共に徐々に付け加えていくのはどうだろう?キキュロプスは「訊かなかったからだ」とは言うが、実際に「戦って勝たなければ消滅」と聞かされた上で、ゲーム、ましてや棋士がその辺を疎かにしている点はちょっと気になる。ただそれも、物語のスピード感や全体の構成として緊張感を保つために取られた手法だと言われれば、まあそうかもとも思う。
この本を読んで改めて感じたことは、まず、小説に入り込ませるために必要な「謎」が散りばめられており、その「答え」を求めて読者は読み進めるという基本的はところは押さえられているなと思った。それが唐突であり、謎がある程度自分の頭の中で形造られれば読み進めることは苦ではないだろう。

 

反面、謎を引きずられて「全部で7回戦」としたことはどうだろう?当然、主人公は最終戦まで追い詰められ、最後の回で奇跡的な大逆転をする・・という流れが読めてしまう。つまり、最終戦までの間にいかに読者を退屈させないかが重要であり、それはとても難しいことだと思う。そこを裏切られたりすればそれはそれで面白いとは思うが、そのためには戦闘に割り込んでくる別の要素が必要になるだろうし、この将棋に似た駒を使った戦いでは奇策となり、全体的な違和感となり得てしまうようにも思う。まあ、この辺りはプロの作家さんが書いているわけで、僕などが文句の付けようもないし、そもそも失礼だとも思う。


僕は将棋はやり方は知っていても、棋士が展開するような「読み」や「手法」、「技術」などは知らない。ついでに言えば、僕はゲームもほとんどやらない。だからこそ、戦いは割と唐突に感じ、駒の役割を使った技術戦、相手の先を読む心理戦に見えてもそもそも駒の役割を理解した上での配置や打ち方の技術的な面も含めていまひとつイメージがわかない。駒の姿も描写は書かれていてもイメージがわかないのは、もちろん自分の貧相な想像力が原因なのは重々承知してはいるのだが。ということで戦闘になって解説も入れてくれているのに、頭の中にその姿が浮かんでこない。そういう意味で、僕個人としては、読み進めるのが苦手な作品であった。途中でプロモーションで全駒の能力アップとその結果どうなるか?など、様々に盛り込まれた要素は面白いのだが、どうもバタついた感じを覚えてしまうのと、とにかく最終戦まで行くのだから、その7回戦目が早くこないか?と思いつつ読んでもいたからだ。

 

また、同時進行してく現実世界はどういった意味があるのか?と思いつつ、おそらくこのゲームの根幹に関わる謎が隠されているのだと思えば、淡々と漏らさず読み続けるしかない。そういう意味でも集中を持続させられる作品であったと思う。しかし、それも戦いが終わり、そこから現実世界の事実が語られた後に冒頭のシーンに戻される。「そうだったのか!」というよりは「うーん、そういうこと?」と思ってしまう。しかもそれはバッドエンドだ。もちろん小説や映画に限ったことではなく、すべてがハッピーエンドであれば良いわけでは当然ない。だが、妊娠した恋人の事故による死の結末として、殺人をおかし、交通事故により植物状態になった主人公が見ている夢がこの戦いのベースであったと言われると、7回に及ぶ戦闘の皮肉さが苦い後味として残るだけだ。もちろん作者はこれを意図していたのだとは思う。だけれど、やっぱりなんというか・・大変失礼なのだが・・ごめんなさい・・薄っぺらさを感じてしまう。ある意味、「夢オチ」と同じだと感じるからだ。

 

しかし、小説全体の世界観みたいなものは面白いなと思う。異世界での戦いと現実世界での紐付け、「唐突でイメージできない」とは書いたが戦う技術と心理戦としての描写は、個別に読んでいると面白いと思う。そもそも、面倒になると途中で読むことを放棄してしまうことがある僕自身が、「答え」に急かされながらも最後まで一気に読んだのだからやっぱり引き込まれるだけの魅力があったのだと思うし、そこは流石、貴志祐介さん!と思うところもある。おそらくゲームが好きな人だったらもっと物語に入り込めるのだろうなとも思う。

 

読み終わってしばらく経ってから「『クリムゾンの迷宮』、また読みたいな・・」と思ったことが、僕自身のこの本に対する率直な評価なのだろうなと感じた作品であった。