南瓜の馬車 〜いいわけでも許して〜

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【ネタバレ】映画:恋するベーカリー 〜別れた夫と恋愛する場合〜

もう観たのは随分前の映画で、その後も何回か観た。ただ、どうも頭の中がうまく整理できない映画であった。そもそも原題が「It's Complicated(複雑!)」である。どうにも納得できていそうでできていないってのが本音だ。だから今までも感想を書いてみようと思いつつ、うまくまとめられないでいた。

いまやベーカリーとして実業家の道を歩んでいるジェーン(メリル・ストリープ)。彼女には離婚した夫、ジェイク(アレック・ボールドウィン)との間に3人の子供がおり、彼女は仕事をしながら見事に子供たちを育てあげた。ジェイクは若い女性と再婚していたが、息子の大学卒業式に出席するために訪れたニューヨークのバーでばったりジェーンと再会する。若い妻の奔放さに疲れ、改めて見る元妻に惹かれるジェイク。再び恋心に目覚めるジェイクはストーカーばりにジェーンを追いかけるが、そこに自宅のリフォームの設計者、アダム(スティーヴ・マーティン)が絡み合う。ジェーンはどちらを選択するのか?

まず、物語のメインになるのが、メリル・ストリープ、アレック・ボールドウィン、スティーヴ・マーティンである。まず、この組み合わせが面白い。ちょっと馴染みそうにない三人なのだが、できあがりを見ると意外にシックリくる。それは、メリル・ストリープはいつものグイグイと前に出てくるキャラクターなのに比較し、アレック・ボールドウィンはちょっと三枚目の元夫、スティーヴ・マーティンはいつものコメディ映画のズッコケぶりとは打って変わった静かな真面目な男を演じている。これが全体のバランスを良くしている要因のひとつだと思う。

 

ジェーンに再び恋するジェイク役のアレック・ボールドウィンのズッコケぶりや、そのストレートな感情のぶつけ方はおよそ大人らしくなく、むしろ「カワイイ」と思う。僕よりも年上の俳優さんをつかまえて「カワイイ」もあったもんじゃないが、今までアレック・ボールドウィンというと今一つ役者としての重さというか演技の幅みたいなものを感じ無かったのだが、今作では「恋するオッサン」がとても面白く、豊かに表現できている。ちょっと見直したのも事実だ。

だが、何と言うか・・現実感に乏しい。映画に現実感を求めすぎるのはそれはそれでどうかと思う。でも、やっぱりそこがまずひとつ納得できない部分だ。なにせこれは、ホームドラマであると思うから。それは僕が日本人であるからかも知れないし、監督が女性のナンシー・マイヤーズだからかも知れないが、演技も役柄もとても良いのに「こんな人、いない」と感じてしまう。これは「マイ・インターン」のロバート・デ・ニーロの時にも同様に感じたところであって、やっぱり監督の「色」なのかなぁ・・とも思う。

対するスティーヴ・マーティンは、誠実さがにじみ出た「良い人」がよく表現されていて、これも巧いと思わされる。だけれども、彼のキャラクターも希薄で現実感がない。やっぱり彼はコメディで生きるんだなぁ・・と感じたのと、やっぱりそれはそういった「コメディアンのスティーヴ・マーティン」を見慣れているからだろうか。それと同時にあまりに存在感のあるメリル・ストリープとアレック・ボールドウィンのせいか、目立たないと感じてしまい、そんな男性に恋する女性というところが現実感の無いと思えるところじゃないかと思う。これは、メリルが女子会?みたいな場面で友人たちと赤裸々に会話をする大人の女性たちの振る舞いとは真逆に感じるからかも知れない。

そして大女優、メリル・ストリープ。いやぁ、流石の存在感。映画によって色々な顔を見せてくれる彼女だけれど、この役では「ちょっとやり過ぎかなぁ・・」と思ったり。特に女子会の場面はそう思える。それでも、アレック・ボールドウィンとスティーヴ・マーティンとのバランスを考えると彼女が物語の軸になっているのが良く分かるし、多少押しつけがましさを感じつつも、それが存在感であることを許容できるだけの女優としての魅力があるのも事実だと思う。

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でだ。納得できないと感じるのは、ジェーンは結局、若妻と離婚してきたジェイクを受け入れることなく「良い友達でいよう」と、そして何となくアダムと良い感じになって終わる。これがねぇ・・なんか受け入れがたいんだわ。あくまで個人的に。

考えられることは、まずは家族の問題であること。子供たちは女手一人で育てられ、父を許しているとは思えないし、実際にそういう場面がある。だけどやっぱりそこは家族でもある。そこから見るとアダムはやっぱり浮いて見える。ただ、母とは言え、女性としての恋は恋。その気持ちも分からないわけじゃない。でも、どうにもアダムは誠実なだけで魅力的に見えないんだ、僕には。ジェイクはやっぱり色々と問題はあって、これはこれで受け入れられないし、受け入れてはいけないと思う。ただ、子供たちにとってはやっぱり父親であって、子供たちの反発する気持ちが今一つシックリと心に入ってこない。それは一緒に映画を観たり食事をしたりする楽しい場面を見ていることも要因だと思う。彼はやっぱり子供たちの父親なのだ。つまり、僕の中では「許しちゃいけないけど、家族の父親は父親として受け入れても良いんじゃない?」って気持ちと、「一人の女性として恋は恋としてあっても良いよね?」と思う気持ちがあるから。だからこの結末がもうひとつ馴染めないというか複雑(まさにIt's Complicated)な気分になるのである。どの結末も何か欠ける・・みたいな。

 

ただ、映画としてはこの三人の魅力に加えて、子供たちもとても魅力的だ。特に、ローレンの婚約者であるハーレイことジョン・クラシンスキーがとても良い「味」がある。彼がこの映画のコメディである部分をシッカリと補助していると思う。その飄々とした風貌、茶目っ気たっぷりの行動や、目線だけの演技。正直なところ、この映画で一番光っていたのは彼じゃないかと感じた。

 

色々と書いたけど、好きな映画であることは間違いない。だって、4回も観たんだもの。好きじゃなきゃ観ないと思う。色々と書いちゃったけど、ナンシー・マイヤーズの作品は好きなことは好きなんだよなぁ・・。むしろ、その世界感への憧れと言っても良いかも知れない。まあ、良い映画だと思います。正直に。