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南瓜の馬車 〜いいわけでも許して〜

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【ネタバレ】よく整理されたトリックだなと(鮎川哲也:黒いトランク)

読書

元々「本格推理」は苦手である。面白さはある。ただそれはパズルを解く面白さに似ていて、僕が望んでいる「人を描く」という点でズレていると感じるからである・・というよりは、自分自身が謎解きにのめり込んでしまって、物語全体を捉えられなくなるというのが本当だろう。自分の読解力が不足しているとも言える。

さて、今回は鮎川哲也さんの「黒いトランク」を久し振りに再読してみたので感想を書いてみよう。最初に読んだのは20代だったと思う。その時にはその時でトリックの巧妙さに感心したものだ。

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汐留駅でトランクに詰められた腐乱死体が発見され、その送り主が服毒自殺という形で発見される。事件は一見単純で、それで解決をみたと思われた。しかしそこには、巧妙なトリックに隠された殺人事件と、その容疑者の鉄壁のアリバイがあった。その謎に鬼貫警部が挑む。

舞台は1949年となっており、まずは言葉や環境など、その様々な表現方法に馴染まなければならない。僕が20代で読んだ時ですら、時代小説とは言わないが多くの古い表現になかなか入り込めないでいた。

しかし改めて読み返してみると、今度はあまり頭に入って来なかった「人」がよく感じられる。鬼貫警部の人となり、近松の奥方で昔の想い人である由美子の存在感、知的な蟻川などなど。その他にも随所に関係してくる人々が、それぞれ「味」がある。最初に読んだ時にはトランクと電車の時刻表を追いかけるばかりで、何も頭に入ってこなかったことである。

今回はネタバレで書くけれど、実際には何も知らずに頭から丁寧に読むことをお勧めする。そういう本であると思う。


この物語の多くは「トランクの謎」で構成されている。途中から判明する2つの同じトランクと、その内容物である「腐乱死体」がどこで入れ替えられたか?物語の謎に挑む鬼貫警部が、同時に語り部となりその謎を解説してくれるが、死体入りのトランクが福岡と汐留の間のどこで入れ替えられたのか?特定の場所を推理しても、犯罪を実行したと思われる級友にはその時間と場所に関するアリバイがあり、それを崩すことができない。微妙だなとも思うのだが、それが小出しな証言により徐々に明確になっていく点が、「よく整理されたトリックだなぁ・・」と感じたのである。逆に言えば、不自然さがないわけではない。そもそも容疑者と思われる者が、みな同級生であった点、鬼貫の質問が徐々に細かくになるにつれ、付け足されるように明かになっていくキーワード。その辺が本格ならではの構成なのかな?とも思う。まあ、他に「本格推理」はあまり読んでないので僕には比較できないのだが。

 

とりあえず再読し終わって、トランクの流れを整理してみたのが下図である。紙の書籍版には図解があるようだが、電子書籍版には図解がないので。間違っていたらご指摘下さい。

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こうやって見渡してみるとあまり違和感がない。しかし、最初は近松の送ったトランクがひとつで、その近松も自殺として処理されるところだった。鬼貫が再度調べてみなければ2個目のトランクに行き着かなかっただろうことは分かる。青づくめのX氏の存在も近松と蟻川の服の入れ替えが後から加わり、それに加えて電車のタイミング、トラックから砂を落とすタイミングなどよく調べて書かれているなと思う。これがデビュー作だと後から知って、ちょっと驚いたくらいだ。

 

ただ、緻密ではあっても、こうやって終盤に解説された上に図解で示してみると割とあっけない感じがしてしまう。よく整理されているが、ものすごく突飛なことをしている印象はない。だが、これがこの作品のよくできた部分でもあると思う。最初から最後まで違和感なく読める。細かなトリックも鬼貫の説明を読んでいるうちに納得できてしまう。

そういう意味でも「よく整理されたトリックだな」と感じ、これが本格の名作と言われる所以でもあるのだろうなと思うポイントだ。

 

今回はネタバレで書いてみたが、やっぱりこれは実際に順を追い、小説を頭から読んで楽しむべきだな・・というのが最後に感じたことである。まあ、推理小説はどれもそういうものなんだとは思うけどさ。