南瓜の馬車 〜いいわけでも許して〜

猫とガジェットと映画と小説の毎日です。

だからミステリーはやめられない

母親が言うには、僕は小さい頃から本さえあれば大人しく本を読んでる子供だったらしい。そのせいか、今でも本を読むのは好きなのだが、あまり時間が取れないのが辛いところ。最近はiPhoneKindleアプリでも本が読めるのでちょっとした隙間時間にも読めるのがとてもありがたい。それでも月に4〜5冊読めれば良いところだ。

僕が読むのは基本的に国内ミステリー。洋書は翻訳のもつ雰囲気が苦手なのと、カタカナの名前を覚えられないから敬遠気味。(^_^;)
もちろんコミックも読むけれど、どうもコストパフォーマンスが高くないというか、よっぽど気に入ったものでないと買わない。もちろん、絵もストーリーも描けるコミック作家さんは凄い!と思ってはいるのだが。
 
で、人生でどのくらいの本を読んだだろうか・・と考えると思いつかない。少なめに年に30冊として、おそらく千冊・・と推測すると、流石にそこまでは読んでないかな?と思える。
というのはそもそもあまり印象に残っていない本もあるし、読み始めて記憶が蘇る場合もある。これは映画も同じで、見始めてしばらくすると「これ、観たことある。」と家人に言うと「またか・・」という顔をされたりするのである。
 
さて、その中から記憶に残っている本をいくつか紹介してみよう。なぜか最近の本よりも昔読んだものの方が多いのが我ながら不思議である。最近も再読したくて一度処分したものをKindleで買い直したり、電子化されていないものは仕方がなく紙の書籍も購入している。
 

魔術はささやく

まずは宮部みゆきさんの「魔術はささやく」。
正直に言うと宮部さんの本はどれも好きなので、一つをあげろと言われると非常に悩む。「火車」も良いし「レベル7」「スナーク狩り」も好きだ。短編集も時代物もどれも魅力的。宮部さんが凄いなと思う点はいくつもあるが、色々なジャンルが書けるということもある。
この中から「魔術はささやく」を選んだのは、主人公の少年の誠実さと利発さ。ストーリーテリングについてはどの作品を読んでも唸る以外の表現がなく、最初からストーリーにグイグイと引き込まれ、気がつけばどっぷりと感情移入している。
物語は連続自殺事件に端を発する。身内と共に巻き込まれていく少年が、その謎に迫りつつ、家族との葛藤に悩むというものだ。日常生活に近いところで物語は展開され、人の醜さも書きつつ、あくまで清廉で汚れていない子供が出てくるパターンは宮部作品には多い。とりたててこの「魔術はささやく」では苦境に立たされても決して汚れない心と、巧妙なトリックに惹かれた。読みやすいというのは褒め言葉ではないのかも知れないが、とっつきやすい作品でもある。
 

テロリストのパラソル

次は藤原伊織さんの「テロリストのパラソル」。
タイトルからはどういう内容なのかは理解できないが、それが終盤になって分かる。ストーリーは、学生闘争の経験を持つ中年アル中が爆発テロに巻き込まれ、その被害者の中に昔の仲間たちの名前があることを知る。不審に思った主人公がその謎に迫るという物語だ。
この作品の面白いところはとにかくテンポとキレが良く、セリフがいちいちカッコイイ。飽きさせないテンポのおかげで一気に読みきることができる。また、キャラクターの書き分けが見事でそれぞれが強烈で魅力的な個性を持っている。ミステリーということで言えば、腑に落ちない点や後出しのようなポイントもないことはないが、読後感が良いこともあり、そういうことはどうでも良いような気分になる。59歳で急逝された著者の作品がもっと読めないことは非常に残念だと思う。
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狩人シリーズ

続いて大沢在昌さんの「狩人シリーズ」これは、「北の狩人」「砂の狩人」「黒の狩人」「雨の狩人」と続くが、全部好きだ。僕は基本的に本格推理とハードボイルドは苦手なのだが、このシリーズは別。それぞれのシリーズで事件を追う狩人と語り部とも言うべき刑事が徐々に犯人を追い詰めていく様はまさに「狩人」に相応しい。このシリーズが好きなのは狩人もそうだが語り部の佐江刑事が非常に魅力的だ。一見、太ってだらしない中年刑事。いかにもダメデカ風なのだが、優秀で反骨的精神の持ち主である。実を言うと「雨の狩人」はまだKindleになっていないので読んでいないのだが、今度は佐江が主人公らしい。とても楽しみにしている。
大沢在昌さんの作品はヤクザと刑事という単純な対立ではなく、時には共通の利益のために共闘しつつ戦っていく作品が多い。個人的には苦手なジャンルだけれども、この作品もテンポと謎解きで引き込まれる。続編が続くと徐々に魅力が薄れるものだがそれもないのが良いポイントだと思う。
 

川の深さは

次は福井晴敏さんの「川の深さは」。「Twelve Y.O.」「Op. ローズダスト」「亡国のイージス」「終戦のローレライ」、どれも好きな作品だが、敢えて初期のこの作品を選ぶ。
物語は、刑事をドロップアウトして今はしがない警備員が主人公。ある日、管理しているビルに若いカップルが忍び込んでいるのを見つける。青年はどうみても爆発による傷を負い、周囲ではヤクザが2人を探している。キナ臭さを感じるこの出来事には国家レベルの陰謀が隠されていた・・という感じだろうか。福井さんの作品は主人公の青年の青臭くも真っ直ぐな正義感、極限まで鍛えられた超人的な能力を持つという設定が多い。なんとなく映画の「ボーン・シリーズ」を彷彿とさせる。この作品が好きなのは、主人公の人間臭さだ。ドロップアウトして何の意味も持たない毎日を過ごす主人公が、この2人と出会って意味のある人生に変えて行く姿に惹かれる。そして頑なだった単なるマシンとしての戦闘員だった青年を変えていく。その過程がとても好きだ。そうやって見ると、どの作品にも共通の「人情」が書かれていて、今の世の中でも捨てたものではないのではないか?と思わせるものがある。
 

ハサミ男

そして殊能将之さんの「ハサミ男」。
少女を殺害し、その喉元に営利なハサミを突き立てるという猟奇殺人がメイン。これは事件を解決するというよりは、様々なミスリードが詰まった作品だと思う。それは最初に読み始めてすぐに感じる。あれ?と思うシーンが多いのだ。それが徐々に明かされる面白さ、意外な展開が読み手を休ませてくれない。似たような作品もいくつかあるが、作品名をあげてしまうとこれから読む人の面白さは半減してしまうだろう。読み始めはあまり文章が巧くないのかな?と思えてしまうが、そうではない。作品全体の猟奇的な雰囲気の構築、ミスリードもそのための準備と感じる。読後に思わず「やられた・・」と呟いてしまう。そんな作品だ。
 

奪取

最後に真保裕一さんの「奪取」。
おそらくどれか一作を挙げろと言われたらこれを挙げる。凝ったミステリーではない。とにかくその疾走感、呆れるほどのテンポの速さ、次の展開が知りたくて分厚い本もあっという間に残りのページが少なくなっていく。物語は金に困った青年たちが偽札作りをするところから始まる。軽妙なテンポながらも扱った題材の難解で緻密さ。小説家はここまで勉強しないとなれないものなのかと感じた一作である。そして逆転につぐ逆転。最後に笑うやつは誰だ!と言わんばかりである。普段なら難解な単語に辟易してしまうような僕でさえ、読む手が止まらなかった。これは良質なエンターテイメントである。まるで映画でも観ているような錯覚に陥る。読む前はその分厚さに躊躇するが、あっという間に読み終わり、良い読後感も手伝って心地よい疲れが残る。そんな作品だと感じた。
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とりあえず今でも心に深く残っている作品を挙げてみた。他にも京極夏彦さんの一連の作品、貴志祐介さんの作品、最初の「リング」や「パラサイト・イヴ」も楽しめた(こちらはホラーだが)。他にもタイムパラドックスの「夏への扉」も、普段洋書は手に取らない僕にも楽しめた。
 
読書は楽しい。限られた人生の中で、他人の人生を追体験する面白さ。それが日常とはかけ離れたドラマチックな展開。これだから読書は止められない。