南瓜の馬車 〜いいわけでも許して〜

猫とガジェットと映画と小説の毎日です。

2017年の読書は、辻村深月さんとの出会いだった

Kindle Oasisを購入してからというもの、隙間時間を見つけては読書をしている。とにかく快適なのだ。画面が大きいとか明るいとか軽いととかあるんだけど、僕的には

  • 防水になったこと
  • 動作速度が上がったこと

この二点がとても大きいことを実感として感じている。動作速度って、ページ送りくらいしか思いつかないかも知れないが、設定ページを開くことや単語や文をハイライトさせる時の動作が段違いなのである。これがとても便利で、Paperwhiteと併用するつもりが気が付けばOasisしか使っていない・・という結果なのである。

さて、前置きが長くなった。昨年末に「2017年の読書」をまとめるつもりでいたのだが、どうにも時間がないのとまとめきれないので、今まで引きずってしまった。

で、結果、数作にまとまらず、「2017年の読書」は、

  • 辻村深月さんとの出会い

と結論づけることにした。

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最初に読んだのは「スロウハイツの神様」。出だしは、僕は恋愛ものには興味がないのでどうにもスローテンポだと感じてしまって。中盤辺りからはそれぞれの人間関係が時代や場所を違えて交差し合うさまが絶妙に巧いと思った。終わってみればあっという間で、第一印象としては、良い意味でトリッキーな感じを受けた。かといって、そればかりではなく、個々のキャラクターに持たせた「人間味」が実に新鮮だと感じた。僕はそれなりに多くの小説を読んでいるとは思うものの、小説を読んでいて「こういう人っているのかな?」と思うことが多い。それはある意味、僕が他人に対して興味を持つことがほとんどないこともあって、ある種のリアリティを小説のキャラクターに望まないことも理由のひとつかもと思う。それが、辻村さんの作品に出てくるキャラクターにはそういったリアリティ以前に、個々のキャラクターの濃密さが伝わってくるところが好きだ。それが生々しさとして新鮮に感じた所以でもある。

で、何冊か読んでみてオススメは・・とするならば「僕のメジャースプーン」かなと思う。こんなに深い思慮を持った子供はそうそういるものではない。それはやはり「大人が書いた子供」であるわけだけれど、最後まで名前が出てこない「ぼく」の、期待や絶望を裏切る純粋さと透明感。ここにも濃密な個性がある。そして、名前を書かないことが、のちの小説にも(あえてタイトルは書かないが、この作品も大好きだ)驚きの展開を見せる。彼女も、いくつかの小説家と同様に、作品間をクロスオーバーした登場人物がいる。これも、物語の展開にワクワク感に似た驚きを持たせていると思う。

総じて、辻村さんの作品は、思春期の恋愛をテーマにしたものが多く、今までの僕には少々苦手な世界感を描いた作品である。それでいてなお、これだけの魅力を感じるのだから、僕にとって「特別な作家の一人」になり、昨年、一番印象の強かった作品群を持つ作家さんとなった。

個人的なとっかかりというか、最初に読む方には第32回吉川英治文学新人賞を受賞した「ツナグ」を勧めたい。ここでも聡明で純粋な少年、歩美(あゆみ)がとても魅力的だが、この読者への感情の揺さぶり方というか、そのツボの押さえ方は浅田次郎さんの「鉄道員(ぽっぽや)」という短編集を連想させる。ぽっぽやが好きな人ならこの作品も好きなんじゃないかと個人的に思う。

辻村さんの作品はハッピーエンドのものが多いが、敢えて人間としての複雑でドロドロとした感情を堪能したいのであれば、「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」だろうか。この関係者へのインタビューを通じて、主人公の人間像に迫っていく感じは・・誰だったか思い出せないが・・宮部さんだっけ?・・以前にも読んだ気がするのだけれど、こうやってジワリジワリと真実に近づいていく緊迫感は読書を休むことを忘れさせる。残念なことは、僕にはこの思春期の少女たちの感情や仲間意識のもつれみたいなものが、実感として分からない。きっと女性にはもっと共感させるものがあるのじゃないと思える。しかし、最後にこのタイトルの意味を知った時、驚かない人はいないんじゃないかな。それはもうトリッキーとかを超えて、物語の構成が見事だとしか言えない。

個人的に苦手な部分は、先にも書いたが、僕には思春期の少女(や少女たち)の感情が分からないということだろうか。それは当たり前のことなんだろうけれど、僕はそこからかなり遠い位置にいる。ここがどうしても読み進めるのに抵抗があった。

2017年はほかにもいくつか新しい作家さんとの出逢いもあって、それは当ブログにも何度か書いたことがある。ご興味のわいた方は、お手数ですが以前のエントリーをご覧にいただければ幸いです。

2018年も既に三ヶ月が経過して、相変わらず精力的に本を読む毎日でもある。そういう環境を持てているということは、その時点で僕は恵まれてるんだろうなといつも思う。本は財産だしね。