南瓜の馬車 〜いいわけでも許して〜

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【ネタばれあり】映画:小説「ゴールデンスランバー」

僕はもともとあまり邦画は好きではなく、「好きな作品を挙げろ」と言われても「Love Letter」と「メゾン・ド・ヒミコ」くらいしか思いつかない。が、最近、自分のKindleの中に伊坂幸太郎さんの「ゴールデンスランバー」を見付け、「あぁ、あの映画もなかなか面白かったよなぁ・・」と思い、再度観てみた。ちなみに、映画→小説→映画の順番で観てみたが、いや、やっぱり面白かった。これも「好きな邦画」の中に加えても良いだろう。

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新進気鋭の若き首相が、地元、先代の凱旋パレード中に暗殺される。そして、まったく無関係な青柳雅春に、なぜか犯人の烙印が押され、あらゆる捕獲の手が伸びる。青柳雅春は逃げ切れるのか、そして、昔の仲間たちや周囲の人間の助けは彼に届くのか。

映画と小説の中でもっとも異なる点は、小説では事件のその後を書いた点であると思う。映画版にはそれがないため、この映画をハッピーエンドと捉えにくいところがあり、そのためにこの作品をイマイチ好きになれない人もいることと思う。やはり物語はハッピーエンドの方が受け入れやすい。小説版でも冒頭に「事件のその後」が書かれているが、主人公である青柳雅春の無実は晴れたわけではない。それでも世間が黒幕とされる人物に行き当たり、青柳雅春が限りなく無実である・・とされることは、映画でのエンディングとはかなりの温度差を感じるだろう。

映画では青柳雅春は整形をし、世を忍びつつも「逃げ切った」ことを描いたことで物語のエンディングを向かえる。しかし、小説ではその辺りが読者の想像力に委ねられているのだが、映画だからこそ表現できた、それこそ立体的で自分の住むこの世界で起きているという実感を与えてくれる。更に、映画では小説に無かった要素も盛り込み、この映画に新しい「色」も加えている。やはり個人的にはこの作品は、小説と映画の両方に触れることで、より完成度を増す作品だと思う。小説では読み手の想像力に左右される部分も、映像にすればそれを補完なり、追加なりしてくれる。もちろん「尺」の問題によってか、場合によってそれは幻滅にも変わるのは他の多くの小説の映画化作品に言えることでもあるが。

この作品の面白い部分は、まずはこれでもかと散りばめられた伏線とその見事な回収、そしてあらゆる要素が物語りの根幹に関わってくる無駄の無さだろうと思う。例えば映画版で追加されたiPodのシーン。まさかこれがあんなカタチで青柳雅春の命を救うことになるとは夢にも思わないだろう・・まあ、よく考えれば使い古された手法ではあるが。「キルオ」という不確定な要素も、「びっくりした?」のセリフで、物語の計画性と意外性を破綻させることのない、ジョーカーのような存在であることを意味づけていると感じた。

次ぎは物語の展開のスピードだ。追われる青柳雅春の、正にその緊張感を持続されるだけの展開が小説にも映画にもある。そして派手すぎないトリッキーさも読む者、観る者を楽しませてくれる。森田森吾が青柳雅春に言う「人間の武器は『習慣』と『信頼』だ」ということが、時には皮肉に、そして最後には彼自身を救う、正に武器となる。

更に。時系列を巧みに入れ替えたこと、それぞれの昔の仲間との邂逅のシーンを重ねることで、この作品には立体感がある。特に映画の最後の場面では「やられた!」と思う人は少なくないと思う。この辺の巧さは、正直、とても敵わないなと思う。僕にはこうは書けない。これが多くのミスリード、そして「ゴールデンスランバー」というタイトルとその歌詞の意味を深く考えさせてくれる。

しかし、とにかく巧い。それは技巧的な部分だけではなく、物語を読み手、観手に飽きさせることなきジェットコースター・ドラマ。笑える部分あり、感動する場面もあり。そしてこの理不尽な状況への必死の抵抗を見せる青柳雅春の生き様。見事。

映画版ではそれに加えて演技陣の巧さも加わる。個々の個性を際立たせる演技とセリフの数々は、物語を深め、その一部はずっと心に残るだろう。主演の堺雅人はもちろんだが、やはり香川照之はスゴイ。周知のこととは思うが。そして、脇役がシッカリと固められている作品は良い作品が多いということを改めて感じた。竹内結子や濱田岳はもちろん、時間的にシーンは短いが、柄本明、伊東四朗と木内みどりも、ベンガルも渋川清彦も劇団ひとりも永島敏行も・・とにかく皆巧い。こういう作品は妙な不協和音が無いのが特徴だと思う。

なんかべた褒めになってしまったが、まあ、ちょっと微妙な点もあることはある。しかし、それも含めてこの「ゴールデンスランバー」はとても良くできた、痛快なジェットコースター・ドラマだと思う。