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南瓜の馬車 〜いいわけでも許して〜

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久し振りに再会した、恩田節(小説:蜜蜂と遠雷)

読書

最近はどうも新しい小説に馴染めなくて、昔購入したものばかり読んでいた。宮部みゆきさんとか貴志祐介さんとか柴田よしきさんとか貫井徳郎さんとか・・まあ、たくさん。そんなところに「恩田陸さん、『蜜蜂と遠雷』で直木賞受賞」というニュースが入ってきたのは先日のことだ。あぁ、そういえば昔はよく読んでいたよなぁ・・と思い出す。最初に出会った「六番目の小夜子」がとても印象的だった。氏のデビュー作だったように思う。
そんな懐かしさも覚え、買って読んでみた。実を言うと、その前に以前の印象を思い出す意味と単純な興味で「六番目の小夜子(1992年作)」も読んでみた。

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今読み返してみると、変わらぬ「恩田節」みたいなものはやっぱりあって、それでも「謎が謎のまま」に終結を迎え、後は読者の手に委ねられる部分の巧さがある。ここは好き嫌いが分かれるところでもあろうけれど、それはそれ。物語の中心となる学生たちを見て、自分自身が学生であった頃を思い出し、「これほど濃密な時間はあっただろうか?」などと思い返してみる。なんかバイクばっかりで他の思い出が無いな・・。(^_^;)

特に学園祭での芝居の部分の緊迫感が見事。今の年齢で読んでみると、あれで良かったのかな?とも思えるのだが、その迫力が普通の活字から発せられるエネルギーだと思うとスゴイなと感じる。まあ、ご興味のある方は読んでみると良いだろう。


さて、「蜜蜂と遠雷」である。

舞台はピアノコンクール。ある物は人生をピアノに捧げ、ある物は自身の表現としての自然を振る舞い、そしてある物は世界に広がっている「音楽」を表現し、世界を音楽で満たすために。

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個々の思惑は別として、まず感じたのは一つのことを突き詰めることの偉大さだろうか。ある人にとっては困難に、ある人にはたゆまぬ努力の積み重ねであり、そしてある人にとっては純粋な心の喜びの帰結として表現される才能や努力の偉大さだろう。ピアノコンクールに立ち向かう(という雰囲気を持った)ことが大きな柱。それにそれぞれの人生として、3人の異なる天才と1人の努力家の物語が主になる。
恩田さんらしいと感じたことは、随所に見られる奇跡に心をくすぐられること、そして多くの抽象表現を通じて読み手をコンクールの舞台に、または観客の一人にしてしまうことだろうか。僕自身はそれほどクラシックに通じているとは言い難いが(とは言いつつ、小学生の時に演奏したJ. シュトラウスとロッシーニは大好きだ)、それでも音楽の世界に引き込まれる。
ただ、この抽象表現があまりに多い。この作品は人を選ぶだろう。クラシック音楽が、または抽象表現が苦手な人にはページを読み進めるのが困難になるのではないか?そんな気がした。ある意味「想像力を試されている」とも感じる。
しかし、他の作品でも見られる痛快なほどの奇跡。まずここにシビレる。そしてやっぱり僕はこの恩田さんのどこか甘くて優しい表現が好きだ。時間がノンビリと流れる。なんとなく自分もピアノを聴いているような気分になる(弾けないけど)。そして、小説の中に出てきたピアノ曲が自分のiTunesのライブラリにあるのか探す羽目になる。僕はそちら側・・興味を持つタイプ・・の人間らしい。
コンクールを舞台にする以上、様々なところでコンテスタントの日常があり、緊張があり、そして演奏があり、最後に順位が決まる。コンクールにおいて、努力家が天才を上回れなかったこと、コンクールには技術だけではなく、体調管理も必要であることもさりげなく書かれ、それが(あくまで僕の感じる)リアリティを刺激してくれる。

小説自体のボリュームも多く、演奏の表現をいかに読み手に伝えるか?それが課題であったろう。それはきっと、読み手側の興味や趣味などに大きく左右されるものだと感じた。一連の恩田作品が好きな人には充分な読み応えを与えてくれると思う。最後のコンクールの順位については、それぞれ思うところはあるだろうけれど、僕はあれで良かったと感じた。

小説を読んだあと、その著者の背景をネットで探してみる。まあ、恩田さんについてはおおよそのことは分かっていたのだけれど、ご本人もいつも周囲に本と音楽があったようだ。こういうところがひとつの「引き出し」になるのかもなぁ・・そんなことも考えた作品であった。

 

で、なぜか恩田さんのこの二つの小説を読んだら、北村薫さんの「スキップ(1995年作)」を読みたくなった。北村さんの本は電子化されていないので、紙の書籍を慌てるように買ってきたのだが、一気読み。いや、まったく素晴らしい。元国語の教師だった・・ということもあるのだろうけれど、言葉の使い方のひとつひとつに丁寧さがある。気に入った言い回しの部分に、思わず付箋紙を貼ってしまいましたよ。たくさん。(^_^;)