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南瓜の馬車 〜いいわけでも許して〜

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他とは一味違う学園ファンタジー?(小説:鹿男あをによし:万城目学)

僕はほとんどミステリーしか読まず、あまりこの手の本は読んだことがない。万城目学氏の小説との出会いは「偉大ならしゅららぼん」だ。どうしてこれか?って単純にタイトルのインパクトが強くて面白そうだと思ったから。で、実際に読んでみたら意外にも(失礼)面白かった。どうやら映画化もされたようだが、そちらは未見だ。

 

さて、今日は「鹿男あをによし」。これも同様に万城目学氏の作品である。実はこれと同時に「かのこちゃんとマドレーヌ」も読んでいるので、こちらにも少し触れてみたい。

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大学の研究室で日夜研究に明け暮れる主人公。彼は散々「神経衰弱」だと言われ、同僚との摩擦もあって一時的に奈良の女子校に期限付きの臨時教師としての任に着く。生徒にはからかわれ、うまく教師としての務めを果たせないでいる主人公に、ある日突然、鹿が話しかけてくる。その鹿によれば、1800年も前から地中に潜む「なまず」の動きを抑え、60年に一度の「鎮めの儀式」によってなまずが起こす大災害から人間を護ってきたのだと言う。しかしそれには儀式を執り行うための「目」が必要であり、それを調達する使命と共に「印」を付けられてしまう。その「印」とは、顔が鹿になってしまうことだった。主人公は無事に「目」を用意できるのだろうか・・。

まごうことなきファンタジー。とにかくタイトルがまず巧い。物語の主題から外れておらず、それでいてインパクトがある。「鹿男あをによし」。出てくるのはまさに顔を鹿に変えられてしまう主人公、そして舞台は奈良の枕詞である「あをによし」である。

舞台である奈良ではもちろん春日大社の神の使いとして鹿、そして京都の稲荷神社の狐、大阪の浪速宮の使いは鼠とそれぞれの動物もそれに合わせてある。
この作品は、同じ作者の「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」よりもファンタジー色は薄く感じるが、それは、なまずを鎮め未曾有の被害を日本にもたらすであろう災厄を阻止しうる神器である「サンカク」を大和杯の剣道大会におけるトロフィーの代わりになるシンボル(のちにそれが間違いであることに気がつくのだが)の奪還として、青春色溢れるスポーツ大会での剣道としている点にあるのではないかと思う。また、「かのこちゃん・・」では主人公が子供だったりすることもあるのだが、「しゅららぼん」同様、物語がシンプルでありつつ、日常からかけ離れている点、その上で違和感が無いのが凄い。同時に、それぞれの視点が言葉は厳しくてもあくまで優しさに満ちている点が好きだ。

また、面白い点として主人公の名前が「おれ」だけで、一切出てこないというのも後で気が付く。こういう作品が無いわけではないが、読み続けているうちに「おれ」が自分自身になってしまったように感じるところも巧い。

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この作品が好きなポイントはもうひとつある。作品に散りばめられたそれぞれの描写が巧みなのだろう。主人公や周囲の人たちが常軌を逸した行動をしていても、その姿が頭にふわりと浮かぶ。こういう時はその小説に没入できている時であり、その作品の細かい描写が非常にうまくまとまっているケースだと思う。そういうポイントにおいてもこの作品はあくまで「温かい」のである。

 

物語の優しさみたいなものを期待するのなら「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」が良いだろう。犬と話しができる猫が出て、他にも色々な猫がいて、それでいて子供の無邪気さが描かれている。子供が読んでも、大人が読んでもその優しい世界観に浸ることができる。こういう作品は意外に少ないものだ。「鹿男・・」はそれに比べるとアップテンポで、メリハリがあって面白い。読み終わり、たまにはこんな作品にも触れてみたい(読みたいという表現よりもこっちの方が合う気がする)・・そんな作家さんの小説だと感じた。とても面白かったです、はい。