南瓜の馬車 〜いいわけでも許して〜

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【結果あり】MotoGP 第7戦 スペイン カタルーニャGP

先日のエントリーでも書いたが、今回のレースは予選での事故もあり、ある意味特別なレースであったと思う。それは最終的なリザルトとは別に、各自がそれぞれのポイント争いとは離れたところで、クリーンなファイトをしていたと感じたことにある。特に、ゴール後にマルケスとロッシが互いを称え合い、握手をするシーンは昨年の因縁を覚えているレースファンにとっては印象的なシーンとして心に残るだろう。

 

さて、レースである。

スタートはいつものようにロケットスタートを見せるロレンソがレースを引っ張る形で始まる。が、後続をチギることができない。路面温度が46度ということか、序盤のハイペースでタイヤコントロールを乱したのかは定かではないのだが、この後ロレンソはズルズルと後ろに下がって行く。序盤こそスペイン人の3ライダー(ロレンソ、マルケス、ペドロサ)がレースをリードするものの、徐々にそこへロッシが割り込んでくるといういつもの展開になった。

 

ビニャーレスは序盤こそペドロサに絡むペースを見せていたが、どうにも前に出られない。ブレーキングで無理をして前に飛び込んでも、冷静にラインをトレースするペドロサにすぐに抜き返されてしまう。以前から思っていたことだが、ビニャーレスのこの活躍は、Moto2からのステップアップとしてコンパクトなSUZUKIのマシンが合っているからだとも思ってもいたのだが、それもあながち間違っていないような気もする。それは、徐々に他のマシンが安定したスピードを得ると同時に、どうしても無理をして前に出て行こうという姿勢が裏目に出ていると感じるからだ。結局、最終的にはタイヤの消耗によるものだろうが、ペドロサに大きく遅れてしまうことになる。ある意味「若さ」を感じもするのだけれど。

 

そのペドロサだが、今回はとても良い走りをしていたと思う。一人、リアにミディアムを履くペドロサは、レース終盤ではペースが上がらず、本人も残り6,7周辺りでタイヤが終わったとインタビューに回答した通りだったと思う。それでもビニャーレスの怒濤の突っ込みにも慌てることなく、落ち着いて対処していたことが印象に残った。

このペドロサの走りを見て、今回はHONDAがいよいよ復活したという印象を強く持った。前回まではリーンから旋回、そして加速とスムーズさに欠け、マシンのコントロールに苦労している印象を持っていたが、今回はその問題はほぼ解消されたのではないだろうか?昨シーズンと変わらぬアクションでS字の進入から切り返し、そこからの加速とマシンの姿勢が安定してクイックだと感じた。ツイートを見てもHONDAが新しいシャーシとコンピュータのセッティングにトライしているらしい。その結果が良い方向としてペドロサのレースにも見える。HONDAの巻き返しはここからだろうと予想する。

しかし、今シーズンのHONDAの序盤の低迷はどういう原因があるだろうか?と考える。レギュレーションの問題もあるが、一つはライダーの開発能力の問題ではないだろうか。マルケスは非常にフィーリングというかセンスで走るライダーのように見える。逆に言えば、マシンの開発能力としてはまだまだ未熟だとも言える。対して、ペドロサは昨今のライダーとは少し異なる、小さく旋回して早めにマシンを起こして加速するトラディショナルなタイプだ。この2人のマシン開発能力をどうこう言うつもりはないが、レギュレーションが変わったことによる影響として、特にマルケスの経験の浅さとペドロサのスタイルの違いは無縁ではないと思う。まあ、それをセンスで速く走らせてしまうマルケスでもあるのだが、やはり今シーズンはここまで精彩を欠いていたと感じる。

 

Ducatiは今回は目立った活躍が無かったが、むしろ残り9ラップでイアンノーネがブレーキングで止まりきれず、ロレンソのリアに突っ込むことしか印象に残らなかった。しかし、経験豊かな最高峰のライダーたちに少しのレース経験しか無い僕が言うのは失礼であるのだが、イアンノーネはドヴィツィオーゾに突っ込んだのも合わせて今期2度目である。通常であれば突っ込みすぎたら早めにアウトにラインを展開し、自らの転倒を、そして他車を避けるものだと思う。事実、他のライダーはそうしていると思える。だがイアンノーネはそのままインに突っ込み、ロレンソを転倒リタイアに巻き込んでしまった。もちろん、前車をパッシングするためにインにねじ込む状態でのブレーキング時にそこまでのマシンコントロールができるのか?ということはあるのだが、本人の技術の問題か、マシンの問題なのか本当のところは分からないが、イアンノーネはまだまだ安定性に欠ける、不安の残るライダーだと認識している。

 

そして終盤、ロレンソが既に戦列を離れた状態でロッシとマルケスのバトル。レース序盤で前に出たロッシに肉迫するマルケスだったが、終盤で既にタイヤは限界に達していたのは見ていても分かった。いつものように進入でリアを流してクリップに向けるマルケスの走りだが、明かにスライド量とマシンのふらつきが多い。一旦はストレートでスリップから抜けたマルケスが前に出たが、ロッシはマルケスのタイヤが既に限界であることを見抜いていただろう。アッサリと残り2ラップを残して前に出た途端、一気に突き放し始める。ロッシにはまだ余力があったこと、そしてマルケスのタイヤが限界であることを見越してのプッシュだろう。

最終的にロッシは、3秒近いアドバンテージを僅か二周の間に確保し、真っ先にゴールラインを抜けることになる。 特筆したいのは、後輪にミディアムを履いていたペドロサが、そのわずか3秒後方でチェッカーを受けたことだろう。先ほど書いたように、これからのレース、HONDAの活躍が期待できる。

しかし、どの辺が変わったのか?なのだけれど、僕が見たところだと、今まではリーン時に若干のフロントへの不安なのか挙動がシャープさを欠いたこと、そして旋回後の加速体制への持ち込みが微妙に遅かったことではないかと思う。その辺は上空からの映像を見ていると感じるのだが、今回はその辺が見られなかった。シャーシの改善が功を奏した・・と考えている。

 

結果、ロッシ、マルケス、ペドロサとロレンソを欠いたBig3が若干の間隔を開けてゴールすることになった。後方に30秒近い大差を付けてである。ある意味、順当とも言えるだろう。印象的だったのは、冒頭にも書いたが、レース後にロッシとマルケスが互いの健闘を称え、握手をしたことだ。昨シーズンの様々な確執も、今回のレースで払拭できた・・と思いたいところだ。ただ、レースそのものは非常にクリーンなファイトで、こういうレースはやっぱり見ていて面白い。もう少しバトルが見られるともっと良かったのだが、自身のタイヤマネジメント、ライバルのマシンの状態を見てのプッシュ、ミスも見られなかった。それだけ今回のレースはロッシの経験が生きたレースであったと思う。まさに快勝であった。

 

さて、今回はMoto2にも少し触れておきたい。

なんてったって、中上選手の久々の表彰台獲得!だ。福田充徳さんもスペインまで応援に駆けつけていたようだが、ちょっと(いや、かなり)羨ましい瞬間を見たことだろう。

中上選手、今回も予選は良い位置に付けたものの、序盤では今一つスピードに乗れない。いつもの通り、どうにもフロントの接地感が不安なのかリーンが緩慢であること、ラインに今一つ自由度が無いように思えたのだが、中盤からの追い上げは見事だった。昨シーズンの連続表彰台を思わせるような快走。特にアクセルを開けるポイントが速く、加速で後車を突き放すシーンが多く見られた。結果、3位でゴール。これは、イタリアGPでレギュレーションの関係から不本意な最後尾からの追い上げを強いられたことも発奮の一因であると思う。こういう経験はこれからのレースに生きるだろう。もちろん今後の活躍に期待しているし、本人も「日本GPでは優勝します。」と力強いコメントを残してくれている。

 

今回のレースは不幸な事故から始まり、急なコースの変更による各チームの対応、そしてレーサーだけではなく、チームも、そして観客もひとつにまとまったようなレースウィークであった・・テレビで見ていただけだが、最後のロッシとマルケスの握手を見てそう感じるのは僕だけではないだろう。レース続行を支持してくれたサロムのご家族にも哀悼と共に感謝の意を感じるところだ。次戦も良いレースを期待している。