南瓜の馬車 〜いいわけでも許して〜

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自然の厳しさと、壮絶な復讐劇「映画:レヴェナント 〜蘇えりし者〜」

レオナルド・ディカプリオが悲願のアカデミー主演男優賞を獲得した映画、「レヴェナント 蘇えりし者」を早速見てきた。 

西部開拓時代のアメリカ北部の極寒の地で狩猟により毛皮を採取するハンターチームがネイティブアメリカンに襲われ、多大な犠牲を払いつつも数人のハンターが逃げ切る。その中でガイドをするグラス(レオナルド・ディカプリオ)は、砦までの道のりで熊に襲われ、瀕死の重傷を負う。彼を見捨てて先を急ごうとするフィッツジェラルド(トム・ハーディ)は、グラスとネイティブアメリカンの女性との間の子、ホークを殺害し、生きたまま土を被せてそのまま立ち去ってしまう。復讐のため雪の降る荒野をひたすら砦に向かうグラスに自然の猛威が立ちはだかる

物語的にはこんな感じだろうか。この映画を簡潔に表すのであれば、「自然の厳しさと、壮絶な復讐劇を演じるディカプリオ」というところだろうか。

 

事前にこの映画の撮影技法が多く伝えられていた。それは自然光を使い、それもマジックアワーと言われる1日1時間半程度の黄昏時を選んで撮影されている。また、撮影期間が長く、時系列に沿った形での撮影により雪が無くなってしまったため、当初のカナダでの撮影から反対の南米の高知に移動した。もちろん、冷たい川に入ったり実際に生肉を食べたりするのも過酷な撮影である。

監督であるアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督は、「バードマン あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡」でもワンショットでの超ロングテイクで撮影するなどの特殊な技法を使った監督でもある。この「レヴェナント」でも撮影には徹底的に拘った・・というところだろう。個人的にはそこは映画の評価とはあまり関係のないところだが、画像の美しさや生々しさは充分に出ている。

事実、ドキュメンタリー映画だと言われても通じるくらいの自然の壮大さと同時に厳かな雰囲気がとても良く出ている。それに坂本龍一氏の音楽を併せ、映画全体に重厚なムードを作り出すことに成功していると思う。

 

さて、レオナルド・ディカプリオはどうだっただろうか?

正直に言えば、彼の今までの演技は「熱く演じる」ばかりで一辺倒な雰囲気があった。もちろん、それだけではないのだけれど、どうしても映画全体を通じてみるとそういうシーンが際立つ。つまり、「どれも同じディカプリオ」だと僕は感じてしまうのだ。

しかしこの映画はちょっと違う。熊に喉をやられ、満足に喋ることができないこともあるだろうが、泥や血にまみれ、地を這うディカプリオの演技は命のギリギリのところで這い上がろうとする者の迫力と存在感がある。今回は素晴らしかったと賞賛したい。

 

逆に考えると、自然とディカプリオ、この2つを除けばストーリーは至極単純でもある。殺されそうになった男の復讐劇。特に大きなヒネりもない。もちろん、ヒネりが必要だと言う意味ではないが、物語は淡々と進んでいくことを退屈に感じる人もいるだろう。事実、劇場で観ている際に居眠りをしているのか、船を漕いでる人を何人か見掛けた。これは映画として考えたらどうだろうか?

 

つまり、最初の素晴らしいポイントに重きを置くのであれば、この映画は素晴らしい映画であると言えるだろう。しかし、ストーリーのスリリングさや、複雑さ、迫力などを期待している人には今一つなんじゃないかなと思う。

ちなみに僕は前者だが、もう一度劇場で・・と思わないあたり、やっぱりそれほど好きな映画じゃなかったのかなぁ・・なんて、このエントリーを書きながら思うのである。

しかし、映画はどの映画を観てもひとつとして同じものはない。様々な映画を観て、様々な感情を抱き、考えることも極上の楽しみのひとつではないかと思う。ディカプリオのオスカー初受賞映画としても、観る価値は充分にある。そういう映画であると思う。