南瓜の馬車 〜いいわけでも許して〜

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「フィールド・オブ・ドリームス」夢を貫き通すことの難しさと素晴らしさを教えてくれる映画

休日だと言うのに朝も早から猫達の大運動会に起こされる土曜日。まあ、いつものことだし元気なことは良いのだけれど。ある意味、休日らしくもある。我が家は平和である。

 

久し振りに「フィールド・オブ・ドリームス」を観た。20年ぶりくらいのことだろうか。

当時は「心が少しだけほんのり温まる良い映画だけど、何が面白いのかよく分からない」・・くらいにしか思っていなかったのだが、ある日、量販店の店頭で見付けて買ってみた。それが一年以上前のことだ。家人に「観よう」と誘ってみてもあまり気乗りしない様子。で、昨夜になってやっと知ったのだ「野球のドタバタコメディ」だと思っていたらしい。割と有名な作品なので、映画の概要くらいは知っているものだと思ったので意外。いや、案外そういう人が多いのかも知れないな。ジャケットもそんな感じだし。

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簡潔にことの映画のことを説明すると、僕的には以下だろう。

 

社会の堅実と生活の現実の厳しさを破り、周囲の圧力にも負けず、愛する家族と共に自分の夢と自由を貫き通すことの難しさと素晴らしさを教えてくれる映画

 

ある日主人公はやっと造った自分の農場で不思議な声を聞く「それを造れば、彼が来る」とささやかな声は自分にしか聞こえない。これが何かの啓示であることを感じるが、彼には経済的事情として自らの農場の存続、越してきた田舎の新参者であるが故に周囲に馴染めず、様々な同調圧力を感じる身でもある。歳が周囲に比べて若いこともあるだろう。たとえ「声」が啓示であってもおいそれとそれに身を任せることが出来なかった。それを後押ししてくれたのが妻であり、幼い我が子である。そして彼は言葉に従い、「それ」は野球グラウンドだと確信し始め、行動を起こす・・・という物語である。

 

単なる野球映画ってわけじゃないと思う。良質のファンタジーであることも認める。アメリカであるからベースとして野球が選ばれたことも事実だろう。「夢は頑張れば叶う」でも良いし「家族愛を大切にする映画」でも良い。それも人それぞれ。映画の感じたの違いや受け止め方の違いは当然と思う。

だがこの映画の本質は、己の生活を守るために汲々とし、周囲の社会や環境に流される世の中において、自身の夢を貫くことは酷く困難であること、そしてそれは家族の愛情という後押しが無ければ行き着くことは不可能であったことだと思う。

 

観ていて身につまされる。今の自分がそういう立場であるが故かも知れない。今の世知辛い世の中が、この映画の中の「社会の堅実さと圧力」であるかも知れない。現代の、特に日本にいる人々は自由に振る舞う。でもそれは他人のことなど関せず、自分だけが良ければ言いという「自由」だ。酷く居心地の悪い「自由」であり世知辛い世界である。

「声」に促された主人公もそんな中で揺れる。もちろんその先にあるものが分からないという未来への不安、ただでさえ馴染めない社会の中で強まる圧力。当然であろう。それでも彼は、その「声」を聞き、いつしか自分の「夢」に置き換えて多くの困難を無理矢理引きはがし、それに家族愛によって後押しされ、ひたすら行動する。行動することの正しさと難しさを感じ、それがいかにリスクを抱えることかも教えてくれる。

 

しかしそれが、徐々に結実していく。過去に傷付いた人々の傷を癒やし、そして最終的には自分が長年抱え込んだ、取り戻すことのできなかった大きな傷をも癒やしてくれる。そんなファンタジーだ。見終わった後に、感動の波が静まると、それは徐々に現在の自分の身の置き場に置き換え、むしろ苦しみに似た感情を味わう。もちろんそれは人によって違うだろうが、僕はそうだ。

 

何度も書くが若い頃にはよく分からなかった。そういう意味でも「大人のファンタジー」なのだろうと思う。流れる音楽の緩やかで温かい旋律。どこまでも突き抜けるような青い空と自然、素直で明るく、率直な娘といつも夫を支えてくれる妻。観ているだけで映画に引き込まれる。キャスティングも良かったと思う。ケビン・コスナーはそれほど好きな俳優ではないが、ここでは頑なでありつつ家族を愛し、強引とも思える行動力を発揮する演技が光る。決して美人ではないが夫を信頼し後押ししてくれる愛嬌のある妻、愛らしくて誰もが抱きしめたい衝動に駆られる娘、アニー。そして往年の名優、バート・ランカスターまで出てくる。もちろん年老いてはいるが。全体的に刺激を抑え、淡々と物語りを勧めていく演出も心憎さを感じる。

 

そして多くの人間の、しかも過去の人達の夢の結実。その夢は本来なら「あり得ない」夢であったのが、それを目の当たりにしても何の違和感も感じない。様々な困難を乗り越えて現れた奇跡には、説得力があり、涙するしかない。

そして、自分もこうありたいと願う。誰しも自分の夢を実現することはできないだろう。いや、むしろ夢を実現できるのは努力と運に見初められたごく一部の人間でしかない。

しかし、本来、夢は誰もが持ち、幼き頃には夢を弾ませて見たものだと思う。そんな思いが喚起され、涙するのだ。そういう意味で良質なファンタジーである。

 

同じようなテイストではBlu-Ray化されていない「オーロラの彼方に」もあるが(是非、BD化して欲しい)、背景が異なり違う楽しみ方ができる、両方ともお勧めである。こちらは入手困難であるようだが、運良く自宅にはDVDがあり、たまに家人と共に観ることがある。こちらも素晴らしい映画だ。

 

余談だが、ちょっとだけ調べてみると面白いことが分かる。この映画は最初は小館で上映され、口コミによって徐々に拡大講演されていったらしい。誰もがこういう物語を求めているという事実であろう。

皮肉なのは受賞したいくつかの映画賞の多くが日本であることだ。今最も「救い」を求めているのは日本人かも知れない。なぜかそんな気がした。

 

ある程度大人になったらこの映画を観て欲しい。どうやって解釈するかはもちろんその人の自由だ。でも僕にはまさに「必見の映画のひとつ」と言える。